A01 計画研究
A01-1:非平衡状態の時間ドメイン制御による特異構造の創製
- 研究代表者:藤岡 洋(東京大学・教授・A01総括)
- 研究分担者:徳本 有紀(東京大学・講師)
研究代表者が開発してきたパルス励起堆積法と呼ばれる結晶成長では、高い励起(非平衡)状態にある原料の供給を電気的パルスで1000万分の1原子層(100ナノ秒)の精度でコンピュータ制御できます。従来手法では、シャッターなどの機械的部品を用いて原料供給を制御していたので、1原子層程度(1秒)の制御しかできませんでしたが、この新手法を用いると結晶中に0次元から3次元までの任意の形状の特異構造をコンピュータプログラムによって導入可能です。研究分担者は極微領域の構造解析を行い、解析結果を試料作製グループにフィードバックすることで特異構造形成技術の完成に協力します。
ページトップへA01-2:平衡状態に基づくトップダウン法による特異構造の創製
- 研究代表者:三宅 秀人(三重大学・教授)
- 研究分担者:荒木 努(立命館大学・教授)
- 研究分担者:宮川 鈴衣奈(名古屋工業大学・助教)
格子不整合の大きいヘテロ接合界面で生じる応力や転位を選択成長や加工基板などのトップダウン法により制御します。結晶成長はMOVPE法とHVPE法を三重大が、MBE法を立命館大が行います。それぞれの結晶成長法の特長を生かしてGaNやAlN、及びそれらの混晶AlGaNをサファイアやSiなどの異種基板上に成長を行います。名工大は基板の加工と評価を担当します。その際に生じる歪みを歪み超格子層(ヘテロボンド層)の挿入や基板加工や選択成長により、意図的に転位やボイドを形成して、歪みの緩和を行います。また、転位の発生、伝搬、消失過程について詳細な解析を行います。ナノ構造、混晶材料の成長に取り組み、特異構造導入で見出される物性を把握し、それを制御する成長及びプロセス技術を開拓します。
ページトップへA01-3:多次元・マルチスケール特異構造の作製と作製機構の解明
- 研究代表者:上山 智(名城大学・教授)
- 研究分担者:竹内 哲也(名城大学・教授)
- 研究分担者:岩谷 素顕(名城大学・教授)
- 研究分担者:本田 善央(名古屋大学・准教授)
本研究グループでは、科学研究費特定研究、特別推進研究、基盤研究Bさらには若手研究Aをはじめとした様々な研究課題を通じ、低温AlN中間層及び凹凸形成基板による高品質AlGaNの作製(特異基板)、特異ナノ構造の導入による高品質GaInNの作製、さらにはアンチモン等異種元素の活用などを進めてきました。これらの意図的かつ制御されたマイクロメートルからサブナノメートルのマルチスケール特異構造(特異元素・特異ナノ構造・特異基板)は、世界最短波長・紫外半導体レーザ(発表当時)や高効率紫外LED、紫外線ディテクターさらには窒化物半導体太陽電池など革新的なデバイスを実現してきました。今後、さらにこの分野を発展させ新たな学問分野にするためには、これらの特異構造の理解、さらにはマルチスケール化・多次元化が必要不可欠です。本研究課題では、結晶成長中にX線や多色レーザ光を用いたその場観察技術を駆使し、これらマルチスケール特異構造の物性・機構を解明・理解しそれによって新しい学問として発展させます。さらにはその物理を理解することによって、新たに多次元・マルチスケール特異構造を創出し、新しい結晶材料科学の創生に貢献します。
ページトップへA01-4:化学平衡・非平衡制御による特異構造のボトムアップ創製
- 研究代表者:熊谷 義直(東京農工大学・教授)
- 研究分担者:村上 尚(東京農工大学・准教授)
- 研究分担者:山口 智広(工学院大学・准教授)
- 研究分担者:小西 敬太(東京農工大学・特任助教)
安定相の結晶構造が異なるワイドバンドギャップIII族酸化物半導体結晶群の化学平衡・非平衡下成長を、高純度結晶の高速成長に適するハライド気相成長法で検討します。原料部で生成したIII族ハライド分子を、成長部で含酸素分子種と化学平衡・非平衡下で反応させます。実験と計算化学の協調で、準安定相の発現を利用するIII族酸化物結晶の相整合混晶成長でバンドエンジニアリングの道を拓きます。また、安定相と準安定相が混在する二次元特異面形成とそれに続く安定相優勢成長でヘテロ界面の応力・転位伝播の制御(三次元特異構造)技術を確立します。解析グループ(B01,B02)と連携し物性・構造を解析し、成果を新規デバイス展開技術としてデバイスグループA02へ提供します。
ページトップへA01-5:計算科学によるヘテロボンドの理論的材料設計
- 研究代表者:伊藤 智徳(三重大学・教授)
- 研究分担者:平松 和政(三重大学・教授)
- 研究分担者:秋山 亨(三重大学・准教授)
- 研究分担者:河村 貴宏(三重大学・助教)
- 研究分担者:寒川 義裕(九州大学・准教授)
伊藤・秋山(三重大)は特異構造『基』であるヘテロボンドの性質を電子構造に注目して理論解析するとともに、特異構造『場』としての表面(2次元欠陥)ならびにその寄与が大きいナノ構造を中心に、ヘテロボンド導入による積層・組成変調、結晶構造変換、制御について成長条件をパラメータとする検討を行う。寒川(九大)・河村(三重大)は、特異構造『場』としての界面(2次元欠陥)、転位(1次元欠陥)を中心にヘテロボンド導入過程を検討、加工基板(3次元欠陥)も対象に界面・表面偏析、面内組成変調について理論予測を行う。計算手法としては、,第一原理計算、量子統計化学手法を基盤として、モンテカルロ法、分子動力学法を併用する。また平松(三重大)のリアルタイム結晶ひずみ解析と有機的に結合することで、ヘテロボンドに注目した『基』と『場』の相互作用を解明、各種欠陥を活用した特異構造創成指針を確立する。
ページトップへA01 公募研究
A01-19-1:窒化物半導体極性制御特異構造の形成技術の深化と物性・機能の制御
- 研究代表者:片山 竜二(大阪大学・教授)
深紫外帯域で発光する材料の導電性制御は困難であり、電流注入とは原理の異なる深紫外光の発生方法の開発が急務です。かたや情報分野においては、現在提案されている光量子計算機は依然として系が巨大で調整困難なうえ安定性が乏しく、その小型化が求められます。上記背景を踏まえて本研究では、窒化物半導体の「極性反転」という特異構造の更なる理解と制御技術の確立を行い、深紫外第二高調波発生と量子もつれ光子対発生の実証を行います。これにより、結晶工学的な学術的知見の掘り下げに加えて、工業・医療分野への応用や、室温動作・高安定な光導波路型量子計算機の実用化などの各分野への貢献を目指します。
ページトップへA01-19-2:自己形成ボイドを用いた応力緩和による異種基板上への高品質結晶成長技術の実現
- 出浦 桃子(東京大学・助教)
従来の薄膜成長では、欠陥や凹凸のない高品質基板を用いることが常識でした。本研究では、基板表面近傍に存在する「ボイド(空隙)」という特異構造を用いた内部応力緩和による、異種基板上への高品質結晶成長の実現を最終目標とし、Si基板上の窒化物半導体成長で実証します。そのために、まずSi基板表面炭化によりSiC薄膜直下に自己形成されるボイドを積極的に利用して、「表面平坦な自己形成ボイドSiC/Si基板」を実現します。その上に高品質窒化物半導体層を成長し、内部応力と成長層の結晶性との関係を定量的に解析することにより、材料によらない普遍的な学理を構築することを目指します。
ページトップへA01-19-3:非対称性酸化物人工格子による空間反転対称性の破れと特異物性創出
- 田畑 仁 (東京大学・教授)
機能性酸化物の多彩な物性とイオン結合の高い結晶歪許容性を生かし、双極子とスピン結合融合による新規物質創成を試みます。原子レベル特異構造制御して結晶学的な空間反転対称性を破った"非対称人工格子"による双極子ゆらぎ誘起の新規磁気誘電体創成を狙います。スピンと双極子秩序が共存するガーネット型酸化鉄薄膜を対象として、積層種、周期、対称性等を制御することで空間反転対称性の破れを実現します。これにより、フォノンソフト化:双極子強結合の発現と、傾角スピンと中心対称の破れの相乗効果による Dzyloshinski-Moriya(DM)相関によりスピン・フォノン結合型マグノン誘起、複合物性創発を目指します。
ページトップへA01-19-4:GaN系LEDの転位に起因するVピットの形状操作と転位無効化メカニズムの解明
- 岡田 成仁(山口大学・准教授)
GaNにおける特異構造効果の最も特筆すべき点は転位密度が高いにもかかわらずLEDの効率が非常に高いことが挙げられます。転位の無効化に超格子(SL)が用いられ、「SL構造」・「ピット形成」が有効あることが分かってきました。しかし、それぞれの効果を個別には評価し切れていないのが現状です。本研究では、Vピット形成のために超格子の代わりに図に示すような中温成長GaN(MT-GaN)やエッチングガスによるピットの形状操作を利用し、超格子の構造的要因を排除します。そして、Vピットの形状の要因が高効率化に及ぼす各要素術の個別解明を推し進めます。最終的にさらなる高効率LEDの開発に貢献します。
ページトップへA01-19-5:歪場・表面構造の自在制御による窒化物半導体の新奇物性創製
- 市川 修平(大阪大学・助教)
III族窒化物半導体では、結晶成長過程において内包される歪や成長最表面の構造によって、デバイス特性や発現する物理が大きく変化します。有機金属気相成長法による窒化物半導体の結晶成長過程において、希土類元素を含めた特異な不純物のin-situ添加技術を駆使することにより、歪場や成長最表面のステップ・テラス構造を自在に制御し、窒化物半導体における新奇物性の発現を試みます。この技術を微傾斜(0001)基板上のエピタキシーに適用することで、従来にない高密度原子ステップ構造を有する新機能素子実現を目指します。
ページトップへA01-19-6:一般化アンサンブル法を用いたGaN結晶成長の解析
- 洗平 昌晃(名古屋大学・助教)
窒化ガリウム(GaN)の結晶成長における気相反応ならびに表面反応の解析に対して、密度汎関数法を基にした統計力学的計算手法はかなりの成功をもたらしています。しかしながら、この手法ではそれぞれの反応プロセスのエネルギー論しか明らかにできず、速度論の観点が欠落しています。本研究では、申請者が開発した自由エネルギー解析手法(一般化アンサンブル法)を駆使して、GaN 結晶成長の各反応プロセスに対してエネルギー論のみならず速度論に関しても明らかにすることを目指しています。得られる速度論パラメータを利用することで、最終的にはGaNの結晶成長の全貌が明らかになると期待しています。
ページトップへA01-19-7:結晶欠陥を生かすためのGaAs系混晶半導体の低温成長技術の確立
- 富永 依里子(広島大学・講師)
テラヘルツ (THz) 時間領域分光法においてTHz波の発生検出に用いられる代表的な素子の一つが光伝導アンテナ(PCA)です。本研究では、省スペースと低コストを満たしたTHz時間領域分光システムの実現を最終目的とし、従来光源よりも小型で比較的安価な光通信帯光源が利用可能なPCAの開発を行います。本助成期間においては特に、研究代表者が提案しているPCA用候補材料の低温成長による結晶欠陥制御に着目し、PCA用材料に求められる高抵抗・短キャリア寿命・高移動度の3つの特性を同時に満たすことのできる結晶成長条件を明らかにしたいと考えております。新奇なGaAs系混晶半導体の新しいDefect engineeringを切り開く研究を遂行したいと思っております。
ページトップへA01-19-8:有機ラジカルの分子内自由度を利用した特異構造の創成
- 細越 裕子(大阪府立大学・教授)
有機磁性体結晶における特異構造の創出と、これによって誘起される量子磁気状態の解明を行います。有機分子が単結合周りの回転の自由度を持つことに着目し、非対称有機ラジカル分子を用いて結晶構造に乱れを導入します。分子配向の乱れによって生じる分子間磁気相互作用の乱れを評価し、磁気状態の変化を低温物性測定から明らかにします。研究代表者は、有機ラジカルの分子設計により、スピン空間構造が制御された多彩な磁気格子を合成する方法論を確立しています。本研究では、二次元磁性体に特異構造を導入し、スピン対形成の乱れと量子磁気状態との相関を明らかにします。
スピン対形成の乱れの模式図