研究概要
基本的な研究戦略
これまでの結晶学では、周期性を乱す特異構造は排除すべき欠陥として捉えられてきました。一方で、この特異構造は完全結晶には見られない興味深い物性を示すことも2000年以降明らかになってきました。以下に具体例を示します。結晶中にボイド(空隙)のような3次元特異構造を形成すると同領域が応力緩和や空孔のシンクとして働くことが透過電子顕微鏡や高分解能X線回折等で明らかになりました。これを精度よく形成できれば高品質領域が形成できると期待されます。また、2次元特異構造である異種原子層を結晶中に導入することが可能であることが透過電子顕微鏡等によって確認されています。これにより、光制御素子など新機能素子を作製することが期待されます。さらに、例えば結晶中にアルミニウム単原子層を精度よく導入することができれば、低対称性結晶特有の極性と分極電場を制御できるなど、これまでにない新たな物理現象やデバイスの実現が期待できます。他にも1次元特異構造や0次元特異構造は歪場、ケミカルポテンシャルの変調、さらには結晶の歪や硬さなどに影響する結果が出てきています。このように、これまでの研究を通じて特異構造結晶の有用性を認識する結果が多数確認されつつあり、一部デバイスでの有用性も見出されています。
この目的を実現するために、多彩な分野の研究者を4つのグループに分け、お互い緊密な連携をとりながらデバイス展開を進めます。具体的には、(A01)特異構造の作製と拡張結晶学の構築、(A02)特異構造の作製と新規エレクトロニクス展開、(B01)特異構造の局所結晶評価と欠陥物性、(B02)特異構造の光物性解明と機能性探索の研究項目において、窒化物半導体やダイヤモンド、SiCなどの半導体先端材料分野で世界をリードしてきたメンバーと結晶欠陥科学のスペシャリストを中心とする新しいメンバーが協力し、思考回路を「欠陥の排除」から「特異構造の積極利用」に切り変えることによって新しい学術領域を開拓していきます。
各グループでの研究テーマ
研究項目A01:特異構造の作製と拡張結晶学の構築 詳細
A01-1では、非平衡パルス励起による結晶成長法を用いて、A01-2では選択成長法などのトップダウン手法を駆使して、特異構造の導入技術を開発します。A01-3では、その場観察技術を活用しマイクロメートルからサブナノメートルの特異構造作製機構の解明を進めます。A01-4では、熱力学に基づく結晶成長の指針を開拓すると共に、拡張結晶学の酸化物材料への展開を図っていきます。A01-5では、計算科学による理論アプローチにより特異構造の導入・解析を行います。
研究項目A02:特異構造の作製と新規エレクトロニクス展開 詳細
A02では、A01と連携して特異構造の作製に取り組みます。特異構造を制御/活用するプロセス開発を中心に、デバイス科学を構築します。さらに、これらの特異構造をデバイス応用に展開します。具体的には、テラヘルツ動作トランジスタ、深紫外・紫外LEDや深紫外レーザ、水素生成システムなどの実現を目指します。
研究項目B01:特異構造の局所結晶評価と欠陥物性 詳細
X線ナノビーム回折、電子顕微鏡、陽電子消滅、フォノン分光等の独自の評価手法を駆使し、A01、A02より供給される窒化物半導体結晶中の空孔、転位、積層欠陥、ナノボイド等の特異構造や、特異構造援用デバイス中の各種特異構造に照準した欠陥物性評価を行います。特異構造が潜在的に有する能動的機能とその制御機構を見出し、結晶・デバイス性能の飛躍的向上に結び付けます。
研究項目B02:特異構造の光物性解明と機能性探索 詳細
近接場光学顕微鏡、フェムト秒パルス電子線、フェムト秒レーザ等を有機的に組み合わせ、特異構造を含む結晶やデバイスの発光・非発光中心や異種接合の構造的・光学的・電子的評価を行います。評価結果に基づき、特異構造制御や新材料設計などの指針を得て領域全体で共有します。
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